2025年4月、「特定技能」と「技能実習生」の外国人介護人材が一定の条件下で訪問介護サービスに従事が認められるようになり、社会問題となっている介護業界の人手不足を解消するのに大きな影響を与えると言われています。
では、実際に外国人材を訪問介護サービスに従事させることにあたり、介護事業者にはどのような対応や配慮が求められるのでしょうか。また、どんなメリットやデメリットがあるのか、現状の介護業界の状況を踏まえながら解説していきます。
今回の改正を踏まえて、皆様の事業所で訪問介護の人材を確保するには、「在留資格介護」「特定技能」「技能実習」のどの在留資格の外国人を検討すべきなのか、一緒に考えていきましょう。
人手不足が深刻な介護業界の現状
日々業務に携わる介護事業者や介護スタッフの皆様が、すでに身をもって実感しているように、今の介護の現場では人手不足の問題が非常に深刻化しています。
しかし実は、2023年度の訪問介護員と介護職員の採用率は16.9%、離職率は13.1%であり、採用率は過去2年間で増加傾向、離職率も減少傾向にあります。これは、業界全体での残業削減、有給休暇の取得促進などの努力により、少しずつ職場環境が改善されてきている成果と言えるでしょう。
しかしながら、それ以上に進んでいるのが少子高齢化です。人材の確保が少しずつ進んでいる現状でも、施設系の介護では6割以上、訪問介護ではなんと約8割の方が「人材の不足感」を感じているというアンケート結果もあります。
従業員の過不足状況(2023年)

引用:公益財団法人介護労働安定センターの調査(2023年10月)
2025年問題による介護業界への影響
「2025年問題」とは、2025年に団塊の世代(1947〜1949年生まれのベビーブーム世代)が全員75歳以上の後期高齢者になることで、「超・高齢社会」に突入し、医療・介護・社会保障・労働力が深刻な影響を受ける」という問題のことを指します。75歳というのは、医療・介護を必要とする方の割合が急激に上がる年齢であり、今後要介護者が急増していくのが予想されます。
前述のように、少しずつ採用状況や離職率が改善されている一方で、介護サービスの需要が爆発的に拡大し、介護業界のサービス供給力が追いつかず、人手不足はますます進んでしまっているのです。
これにより、「介護難民」の増加や介護職員の過重労働が懸念され、社会問題化しているのが現状です。
人口が多い都心部こそ、介護人材が不足する
高齢化といえば、都市部よりも地方都市のほうが進んでいるというイメージが強く、介護人材が不足しているのも当然地方都市の方が深刻だと考える方が多いのではないでしょうか?実は近年だとそうではなく、都市部の方が介護人材不足が顕著になってきているのです。
厚生労働省が調査した2022年のデータによれば、地方都市の介護職の有効求人倍率は2.5倍前後であるのに対し、首都圏や東海、関西などの都市部では4倍以上と、都市部の人材確保が特に難しい状況なのです。
65歳以上の高齢者人口の今後の推移を見ると、従来は高齢化が進んでいた地方はピークが過ぎつつある一方で、今後は都市部で急速に高齢化が進むと予測されています。
このことから、今後、地方都市だけではなく、都市部では介護人材不足がより深刻化すると予想されます。この問題は、介護事業者や介護業界だけの問題ではなく、日本全体で考えていくべき問題であり、賃上げ・外国人材の活用など、人材確保のための制度改正が急がれています。
ヘルパー不足で訪問介護サービスを断らざるを得ないケースも
介護業界の中でも、訪問介護サービスにおける人材不足は特に深刻だと言われています。
訪問介護では、スタッフが利用者の自宅を訪問し、1対1で接することが多いのが特徴です。さらに、利用者のみならず、その家族や近隣の方々との関わりや対応を求められることもあります。
これは、精神的にも身体的にも負担が非常に大きい上、コミュニケーション能力や判断力も求められる業務なのです。さらにいえば、各利用者の自宅への移動時間を考えると、効率的な勤務が難しい上、その分給与が十分であるとは必ずしも言えないのが現状です。これらのことから、訪問介護は人材が集まりにくく、定着しにくいことが問題視されています。
介護職員などで構成される労働組合「日本介護クラフトユニオン」が、訪問介護事業所の管理者やケアマネージャー1,000人を対象に行ったアンケートによると、約6割(55.2%)の事業所が「前年度より収入が減った」と回答しました。そのうち、約73%の事業所が「訪問介護員が足りず、依頼を受けられなかったことが収入減の原因」としています。
また、収入の増減にかかわらず、「訪問介護員の不足によりサービスの提供を断った経験があるか」という問いには、約9割(89.4%)の事業所が「ある」と回答しており、多くの現場で深刻な人手不足が起きていることが明らかになりました。
訪問介護サービスの収入の増減について(2024年度)

引用:UAゼンセン日本介護クラフトユニオン(NCCU)」の調査
これからの日本では、訪問介護の必要性がますます高まっていくと考えられます。しかし今のままでは、サービスを続けられずにやめてしまう事業所が今後さらに増えてしまうおそれがあります。
訪問介護が必要なのに受けられないという状況では、高齢者が安心して暮らすことが難しく、超高齢化が進む日本社会にとって大きな課題となります。
外国人の訪問介護解禁、制度改正の概要について
上記で説明したように、超高齢化社会へと突入したことにより、介護への需要の急激な高まりと、特に人手不足が深刻な訪問介護の人材を確保するために施行されたのが、今回の制度改正なのです。
ここでは、具体的にどのような改正がされたのかを解説いたします。
在留資格「技能実習」「特定技能」訪問介護に従事可能に
訪問介護サービスは、利用者との円滑なコミュニケーションや緊急時の適切な判断が求められるなど、高度な対応力が必要とされる業務です。
こうした業務の特性から、これまでは「在留資格・介護」や「EPA(経済連携協定)による介護福祉士」など、一定の日本語能力や介護の専門知識を持つ外国人に限って、従事することが認められていました。
2025年4月の制度改正では、その2つの在留資格に加え、「特定技能」や「技能実習」の在留資格を持つ外国人にも、一定の条件を満たすことで訪問介護サービスに従事することが認められるようになったのです。
旧制度:2025年4月以前
施設系介護 | 訪問系介護 | |
---|---|---|
在留資格・介護 | ◯ | ◯ |
EPA介護福祉士 | ◯ | ◯ |
技能実習 | ◯ | × |
特定技能 | ◯ | × |
新制度:2025年4月〜
施設系介護 | 訪問系介護 | |
---|---|---|
在留資格・介護 | ◯ | ◯ |
EPA介護福祉士 | ◯ | ◯ |
技能実習 | ◯ | ◯ |
特定技能 | ◯ | ◯ |
※EPA介護福祉士は、日本と経済連携協定を結んだ国の出身者の有資格者
しかし、今回の改正は、「特定技能」や「技能実習」の在留資格を持つ外国人なら、誰でも訪問介護サービスに従事できるようになった、というわけではありません。前述のとおり、高度な対応能力を要する業務において、安心・安全にサービスを提供できるよう、訪問介護に従事させる受入事業者には、様々な条件や配慮を求められることになります。
訪問介護に従事させる受入事業者が満たさなければならない要件
外国人が訪問介護サービスに従事する場合には、受入事業所は、以下の①②の対応が求められます。
①対象の外国人介護人材は1年以上の実務経験があること
提供するサービスの質を確保するために、外国人介護人材が訪問系サービスに携わる場合は、原則として、介護事業所などで1年以上の実務経験があることが求められます。ただし、下記の2つの条件を満たすことで、実務経験1年未満の外国人介護人材でも認められます。
- 日本語能力試験N2相当等、在留資格で求められている以上の日本語レベルに達していること
- 利用者ごとに、サービス提供責任者や先輩職員が下記の期間同行訪問を実施すること
・サービス提供が週1回の場合:半年間の同行訪問(利用者同意+ICT活用で3ヶ月に短縮できる)
・サービス提供が週2回の場合:3ヶ月間
・サービス提供が週3回以上の場合:2ヶ月間
利用者やご家族との信頼関係を築き、また利用者の特性に応じた適切なサービスを提供するため、外国人介護人材には原則として2か月以上の同行訪問を行うことが求められ、2か月未満に短縮することは認められていません。
利用者の状態に応じて、外国人介護人材が一人で適切に対応できるようになるまで、必要な期間にわたり同行訪問を実施する必要があり、受入事業者にはその適切な判断が求められます。
②サービスの利用者やその家族へ丁寧な説明を行うこと
外国人介護人材が利用者の居宅を訪問して介護業務を行う可能性がある場合には、利用者またはその家族に対して、あらかじめ以下の内容を記載した書面を提示した上で、内容を説明しなければなりません。
また、その書面には、利用者またはその家族の署名を得なければなりません。
- 外国人介護人材が訪問する場合があること
- ①で記載したような、訪問する外国人の実務経験等について
- ICT機器を使用しながら業務を行う場合があること
- 外国人介護人材の業務従事にあたって、不安なことがある場合の事業所連絡先
受入事業者が遵守すべき事項
外国人の訪問介護スタッフを受け入れる事業所は、介護職員初任者研修などの必要な研修を修了することで、訪問介護などの業務に従事させることができます。
従事させる際には、さらに以下の①~⑤の条件を守らなければなりません。
①外国人介護材への研修の実施
受入事業所においては、利用者やそのご家族の生活習慣、および利用者一人ひとりの状態に配慮したサービス提供が可能となるよう、以下の内容を含む研修を実施する必要があります。
- 利用者の居宅において実施される、訪問系サービスの基本事項および生活支援技術に関する内容
- 傾聴、受容、共感などのコミュニケーションスキルを含む、利用者・家族・近隣住民との良好な関係づくりに関する内容
- 日本における生活様式に関する理解を深める内容
- 緊急時の連絡方法や連絡先の事前確認など、不測の事態において適切に対応するための研修内容
②一定期間の同行訪問・OJTの実施
外国人介護人材が訪問介護サービスに従事するにあたり、一定期間にわたりサービス提供責任者や、利用者を担当している先輩職員などが同行して指導を行うことが必要です。受入事業者は、外国人介護人材の成長や習熟度を十分に考慮し、同行期間の長さや指導内容を適切に判断しなければなりません。
- 外国人介護人材が利用者やそのご家族との信頼関係をしっかりと築くこと。
- 居住環境等の周辺状況を踏まえ、各利用者の特性に合わせた適切なサービスを提供できるようにすること。
先輩職員が実際の訪問現場へ同行して直接指導し、具体的な対応方法や利用者とのコミュニケーションの取り方、緊急時の対応などを学び、一人で訪問系サービスを安全かつ適切に提供できる能力を身につける。
③外国人材への説明・意向確認・キャリアパスの画定
外国人介護人材に対しては、訪問介護サービスに従事させるにあたり、訪問介護の業務内容や注意点などを丁寧に説明した上で、その業務に従事したいか、意向を確認しなければなりません。また、その後のキャリアパスを明確にすることで、モチベーションを保ちながら業務へ従事することができます。
- 外国人介護人材が習得すべき技能や、将来的に目指すべき姿を明確にし、計画的に成長できるようにすること。
- 本人の意向や日本語能力の目標を尊重しつつ、将来像の実現に向けた支援を行うこと。
- キャリアアップに対する本人の理解と主体的な取り組みを促進すること。
- 本人との十分なコミュニケーションを通じて、個別のキャリアパスを構築する。
- 受入事業者が、外国人介護人材本人と協力して「キャリアアップ計画」を策定する。
- キャリアアップ計画には、本人の意向や日本語能力の習得目標、将来のキャリア像、事業者による支援内容を明確に盛り込む。
- 策定した計画については、本人と共有し、内容を十分に理解してもらう。
このことにより、外国人材の介護専門家としての成長を促すだけでなく、サービス品質の向上や外国人介護人材の定着も期待できるのです。
④ハラスメント対策
訪問介護の現場において、外国人介護人材が直面する可能性のあるハラスメントには、外国人であることを理由とした差別的な発言や、日本語能力に対する過度な要求、個人的な情報への過干渉、不必要な身体接触、また業務内容を超えた要求などが考えられます。
これらは、業務が第三者による監視が難しい環境である利用者の居宅で行われることから、発生に気づきにくく、深刻化しやすい傾向があります。そのため、受入事業者においては、外国人介護人材が安心して業務に従事できるよう、適切な事前説明や相談体制の整備を行うことが重要です。
- ハラスメントを未然に防止し、外国人介護人材が安心して働ける職場環境を整えること
- ハラスメントが発生した場合にも適切に対応し、人材の保護と信頼関係の維持を図ること
- ハラスメント防止のための対応マニュアルを作成し、関係者と共有する
- 管理者や関係職員の役割を明確にする
- ハラスメント発生時の対処方法等に関するルールを作成し、関係者と共有する
- 利用者やその家族に対して、ハラスメント防止の取り組みを周知する
- 実際にハラスメントが発生した場合は、定められたルールに基づいて適切に対応する
- 外国人介護人材が安心して相談できる窓口を設置し、その存在を周知する
⑤不測の事態に対応するためのICT活用等の環境の整備
外国人介護人材が単独で利用者の居宅を訪問する際に感じる不安を和らげるとともに、緊急時にも落ち着いて対応できるようにするためには、ICT(情報通信技術)を活用した環境整備が重要です。ツールの導入により、不安の軽減や緊急時の迅速な対応、情報共有の円滑化が図られ、サービスの質と安全性の向上につながります。
緊急時において外国人介護人材が適切に対応できるよう体制を整備し、業務上の負担を軽減するとともに、サービスの安全性と継続性を確保すること。
- 緊急時の連絡先や対応フローを明記したマニュアルを作成すること。
- 緊急事態を想定した研修を実施すること。
- 緊急時に他の職員が迅速に駆けつけられる体制を整えること。
- サービス提供記録や申し送り事項について、職員全員で情報を共有できる仕組みを構築すること。
- コミュニケーションアプリの導入など 、ICTの活用を図ることにより、業務の効率化と連携強化を図ることが望ましい。
受入事業者が配慮すべき事項
外国人介護人材が円滑に訪問介護業務を担い、職場に定着していくためには、前述の遵守すべき事項や必要な要件を満たすだけでなく、下記のような受入事業所による丁寧で継続的な配慮も重要となります。
①訪問先の選定への配慮
外国人介護人材が訪問系サービスに従事する際は、どの利用者宅を訪問するかを決めるにあたり、トラブル等を回避するためにも、次のような点を総合的に考慮する必要があります。
- 利用者の健康状態や日常生活動作(ADL)
- 認知症の日常生活自立度
- 利用者およびその家族の意向
- 外国人介護人材のコミュニケーション能力や介護技術のレベル
- 外国人介護人材の意向
- 居住環境や周辺の状況

また、同行訪問の期間中も、外国人介護人材に対して必要な指導を行うとともに、利用者やご家族の意向を改めて確認しながら、当該人材がその利用者に対して適切な支援を行えるか、また良好な関係を築けそうかといった点も見極め、今後もサービス提供を継続するかどうかを判断しなければなりません。
②外国人介護人材の状況に応じたOJT等への配慮
外国人介護人材が安心して業務を遂行できるよう、事業者側はきめ細やかな支援体制を整えることが重要です。外国人介護人材の個々の状況や実務経験、安心してサービスを提供できると判断されるまで、能力に応じて継続的かつ柔軟に支援や指導を行わなければなりません。
- 通常よりも長い期間のOJT(職場内訓練)を実施し、段階的に業務に慣れさせる。
- 定期的な面談を実施し、状況や課題を把握する。
- きめ細かな日本語学習支援を提供し、言語面での不安を軽減する。
- 訪問系サービスの開始直後には、事業所に戻った後の指導や面談の機会を多く設ける。
- 外国人介護人材の日本語能力を考慮し、語学力向上のための手厚い支援を実施する。
- それぞれの外国人介護人材の状況や能力に応じた、個別に適切な支援を提供する。
外国人材の訪問介護サービス解禁がもたらすメリット
①訪問介護人材の確保
これまでも訪問介護に従事することが許可されていた「在留資格・介護」は、日本の国家資格である介護福祉士を取得し、日本語能力試験でN2以上のレベルに達していることが要件とされています。つまり、非常に高度な専門性と日本語能力が求められる、非常に優秀な外国人介護人材なのです。
一方で、「在留資格・介護」は取得のハードルが高いが故に人数が限られているため、人材獲得の競争が激しく、雇用条件が十分に整っていない小規模な訪問介護事業所では、外国人材を確保することが難しいという課題がありました。
今回、従事可能な在留資格の範囲が拡大されたことにより、これまで人材確保が困難だった事業所でも、より柔軟に外国人介護人材を受け入れられるようになると期待されています。また、大量の人材を必要とする大規模事業所においても、採用の選択肢が広がることになります。
今後は、より多くの外国人介護人材が訪問介護の現場で活躍し、介護サービスの継続的な提供と質の向上に寄与していくことが見込まれます。
②即戦力でポテンシャルが高い人材の雇用
今回解禁される在留資格の中でも、特に「特定技能」で来日する外国人介護人材は、日本語能力試験や介護分野の技能評価試験に事前に合格していることが条件となっているため、一定の日本語力と介護に関する基本的な知識・技術を備えています。そのため、来日直後から現場で即戦力として活躍できる人材が多い点が大きな特徴です。
また、自ら進んで試験に挑戦し、日本で働くことを選んで来日していることから、高い意欲と向上心を持った人材であるといえます。こうした前向きな姿勢を活かし、現場経験を積みながらさらなるキャリアアップを目指すことが期待されており、将来的には介護現場の中核を担う人材として成長していく可能性も十分にあると考えられます。
③特定施設以外の介護現場でも外国人材の活躍が可能に
今回の改正で訪問介護への外国人材の従事が認められたことにより、これまで就労が制限されていた「サービス付き高齢者向け住宅」や、「特定施設入居者生活介護」の指定を受けていない住宅型有料老人ホームなどにおいても、外国人介護人材を訪問介護のかたちで受け入れることが可能になりました。
これらの施設でも、従来から慢性的な人手不足が課題とされており、特に夜間や早朝などに十分な職員体制を確保することが難しい状況が続いていました。今後、訪問介護を通じて外国人材が活躍できる場が広がることで、現場の負担軽減やサービスの安定的な提供につながることが期待されています。

外国人材が訪問介護に従事することによるデメリット
①受入事業者に求められる対応面の負担
外国人介護人材が訪問介護に従事することには多くの利点がありますが、その一方で、受け入れる事業者側には一定の負担や課題も伴います。制度上、訪問系サービスに外国人材を従事させるためには、定められた条件を満たすだけでなく、現場でのきめ細やかな配慮も欠かせません。
具体的には、十分な同行訪問によるOJTの実施や、実務経験を積ませるための体制づくりが必要です。また、日本語能力に配慮したコミュニケーション支援、緊急時の対応体制の整備、さらには利用者や家族への丁寧な説明と理解の促進といった対応も求められます。
加えて、ICTの導入やマニュアル整備、定期的な研修の実施など、人的・金銭的なコストの負担も小さくありません。これらの取り組みは、サービスの質と安全性を確保するうえで不可欠ですが、特に中小規模の事業所にとっては、運営上の大きなハードルとなる可能性があります。
②訪問先への移動手段の問題
外国人介護人材が訪問介護に従事する際、移動手段の確保は大きな課題となります。
多くの外国人は来日時点で日本の運転免許を持っておらず、免許取得には教習費用や試験準備など時間と費用がかかるため、事業者の負担が重くなります。また、免許を持つスタッフが送迎を担当しようとしても、多くの事業所で人手不足が深刻であり、十分なサポートが難しい状況です。
さらに、公共交通機関や自転車を利用した場合、訪問先や地域の交通環境によっては移動時間が長くなり、業務効率の低下やサービスの質に影響を及ぼすことがあります。
移動効率については、職員の負担増やサービス品質の維持にも影響を及ぼす可能性があり、外国人材の安定的な活用を進める上での大きなハードルとなっています。
③コミュニケーションや生活様式への対応
外国人介護人材が訪問介護に従事する場合、利用者の自宅という生活に密着した環境での業務となるため、日本の生活習慣やマナーを理解する必要がありますが、異文化に不慣れな方にとって、この点が大きなハードルとなります。
また、利用者の家族や近隣住民とのコミュニケーションが頻繁であり、施設での介護では生じなかった対人関係の対応が必要です。さらには、高齢者特有の話し方や地域特有の方言に対応する必要もあり、言葉の壁が業務の円滑な遂行を妨げる可能性があります。
こうした課題を乗り越えるためには、十分な日本語教育や文化理解のための研修が不可欠であり、受入事業所のきめ細かなサポートが求められます。
「技能実習」「特定技能」どちらを受け入れるのか
深刻な人手不足が続く介護業界において、外国人材の受け入れは欠かせない選択肢となっています。とりわけ訪問介護の現場では、利用者の自宅に一人で訪問し、きめ細やかなケアと的確な判断が求められるため、より高い自律性と即戦力が必要とされます。
新たに訪問介護サービスへの従事が解禁された在留資格には「技能実習」と「特定技能」がありますが、高い対応力が必要な訪問介護の現場に適しているのは「特定技能」と言えるでしょう。日本語能力・即戦力性・長期的な活用といった観点から、なぜ訪問介護には特定技能外国人がふさわしいのかを詳しく見ていきます。
高い日本語能力を有する人材
訪問介護サービスにおいては、利用者とのコミュニケーションが非常に重要です。
技能実習制度では、日本語能力に関する基準が比較的緩やかであるため、十分な日本語力を持たない場合もあります。そのため、訪問先での細やかな対応や緊急時の意思疎通に課題が生じることがあります。
一方、特定技能制度では、日本語能力試験のN4以上、または同等の日本語力が求められており、一定以上の言語能力が保証されています。これにより、利用者やその家族との円滑なコミュニケーションが可能となり、より質の高い介護サービスの提供が期待できます。
即戦力が期待できる人材
訪問介護サービスにおいては、高い専門知識と技術が求められます。
技能実習はあくまでも「実習生」であり、一定期間の実習を通じて技術を習得することが目的です。
一方、特定技能制度では、介護分野の技能試験に合格した人材が対象となっており、既に一定の専門知識と技能を備えています。そのため、来日後すぐに現場で活躍できる即戦力として期待できるのが大きな特徴です。
特に訪問介護では、一人で利用者の自宅を訪問し適切な対応をする必要があるため、即戦力の重要性が高まります。特定技能外国人であれば、訪問介護の現場で必要とされる多様な対応力を備えており、早い段階から活躍が期待できます。
長期的な人材活用計画が可能
技能実習制度は、基本的に帰国を前提とした制度設計となっており、長期間の雇用や定着が難しいという課題があります。一方で、特定技能制度は最長5年間の就労が可能であり、その後は「特定技能・介護」への移行も目指せるため、より長期的な雇用が期待できます。「特定技能・介護」へ移行した後は、永住や家族の帯同も認められているため、生活面でも安心して働き続けられる環境が整っています。
これらの理由から、訪問介護の現場では、短期間での人材の流出が懸念される技能実習よりも、安定した就労が可能な特定技能を推奨しています。結果として、質の高いサービスの継続提供と現場の安定が図られることが期待されています。
特定技能は制度の透明性と法的整備が進んでいる
訪問介護サービスにおいては、外国人介護人材が利用者の生活環境に馴染み、高いコミュニケーション能力を発揮することが求められます。
その点で、特定技能制度は登録支援機関との連携により、生活オリエンテーションや日本語学習支援が円滑に行われる仕組みが整っています。これにより、訪問介護に必要な高水準の日本語能力や日本の生活様式への深い理解が期待できます。
また、特定技能では「日本人と同等以上の報酬」が義務付けられており、待遇面の透明性が確保されているため、安心して長期的な雇用関係を築くことが可能です。
「特定技能」が訪問介護の人手不足を救うカギ
介護分野での外国人材の在留資格の中でも、「特定技能」を持つ人材は4万4000人以上と圧倒的に多く、その存在はすでに介護業界にとって大きな支えとなっています。
これまで、特定技能外国人の活躍は主に施設系介護に限られていましたが、今回の制度改正により、訪問介護の現場でも幅広く活躍できるようになりました。
即戦力として期待できる特定技能外国人の訪問介護解禁は、サービスの質向上と現場負担の軽減に大きく貢献すると考えられます。
介護分野の外国人在留者数
在留資格 | 在留者数 |
---|---|
在留資格・介護 | 1万2227人 令和6年12月末時点 |
EPA介護福祉士 | 3304人 令和7年1月1日時点 |
技能実習 | 1万5909人 令和5年12月末時点 |
特定技能 | 4万4367人 令和6年12月末時点 |
※国際厚生事業団や出入国在留管理庁調べ
今後、こうした人材が訪問介護の現場で安定的に活躍することが、介護業界全体の人手不足解消にとって非常に重要なカギとなるでしょう。
まとめ
今回は、「特定技能」と「技能実習」の2つの在留資格が、訪問介護サービスに従事できるようになったという制度改正について解説しました。この制度改正により、深刻な人手不足に悩む訪問介護の現場の負担軽減に大きく貢献してくれることでしょう。
一方で、高度な技能や知識、判断力、コミュニケーション能力が必要となる訪問介護の業務においては、外国人本人・サービス利用者双方に不安があることも否めません。そのため、介護事業者には、研修等多くの条件と配慮が求められるのです。
訪問介護サービスに従事する外国人材の雇用を検討する場合、当社では特定技能の受け入れをお勧めしております。日本語能力が高く、しかも一定水準の技能と専門知識をもった特定技能外国人なら、的確な判断力と日本語でのコミュニケーション能力も期待できるでしょう。
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