2024年6月14日に新たに創設されることが決定した『育成就労制度』。この在留資格は、『特定技能』と同様に、特定産業の人手不足解消や長期的な人材確保を目的としており、従来の『技能実習制度』とは大きく異なります。
『育成就労制度』は、2027年までに施行されることが見込まれていますが、人手不足に悩む経営者の方は、ぜひこの制度を利用して外国人の受け入れを検討したいと考える方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、『育成就労』の受け入れを考える前に知っておきたい、『育成就労』の問題点や意外な落とし穴について解説していきます。
『育成就労制度』の概要
繰り返しになりますが、『育成就労制度』は、従来の『技能実習制度』の目的にあった「国際貢献」の要素を排除し、目的と現実の乖離や実習生の失踪の問題を解決して日本の人手不足解消のための制度です。人材育成と長期的な人材確保のため、『育成就労』では3年間の在留期間を経て、『特定技能』の在留資格を得る人材を育成することを目指しています。
そのため、これまで『技能実習生』には転職が認められていませんでしたが、『育成就労制度』では要件を満たせば許可されるようになり、入国する外国人の労働者として権利を向上させるような制度になります。
まだ公表されているわけではありませんが、給与や待遇に関しても、『技能実習』では最低賃金での雇用が許可されていたのに対し、『育成就労』ではある程度の要件が加わることが想定されています。
育成就労制度が創設された目的や条件面に関しては、下記の記事でも解説しておりますので、合わせてご覧ください。
また、『育成就労制度』には、下記のようなメリット・デメリットがあります。
『育成就労』のメリット
外国人の労働条件が人権保護の観点で改善される
『技能実習』では、本来の目的と現実が乖離していたことから、労働基準や人権保護の観点でトラブルが発生していました。具体的には、少ない賃金で重労働を課せられ、実習生が失踪したり違法行為に手を染めてしまうといったことが社会問題になっていました。
そこで、『育成就労』では、条件を満たせば転職も可能になりました。そのほかにも入国する外国人の労働者としての権利を守り、これまでのようなトラブルを防ぎ、日本が外国人にとって働きやすく魅力的な国になっていくことが期待されます。
『特定技能』への移行で長期的な雇用が可能
『育成就労』では、3年間の在留期間を経て『特定技能』への移行を前提としています。特定技能2号まで移行することができれば、在留期間に制限はなく、家族の帯同も認められます。
これにより、結果的に長期の雇用が可能となるため、人手不足の根本的な解消へとつながることが見込まれます。
業務内容が制限が緩和される見込み
『技能実習』では、技術習得が目的であるため、専門的な知識や技能が不要な単純作業に従事させることはできません。しかし、『育成就労』では『特定技能』への移行を目標とするため、『特定技能』と同様に、単純作業も含む日本人の職員と同じ作業への従事が許可されると考えられます。
『育成就労』のデメリット
受け入れ可能な分野が狭まる
これまでの『技能実習』では90職種(165作業)で受け入れ可能であったのに対し、『育成就労』では特定技能1号と同じ18分野が対象となる見込みです。そのため、『技能実習』では受け入れ可能だった職種でも、『育成就労』では受け入れが認められない場合があります。
しかし、『特定技能』でも対象分野が拡大されていく傾向にあることから、『育成就労』でも今後もっと多くの分野で受け入れが可能となっていくことが見込まれます。
費用負担が増える
『育成就労』において、外国人材の送り出し機関に支払う手数料や航空券代などの費用を、受け入れる企業側が負担することになります。
加えて、労働基準や人権保護がより厳密に運用されることにより、賃金や労働時間などの労働環境を再評価する必要性が生じるかもしれません。
育てた人材が他社へ転職するリスク
『育成就労』では転職が条件を満たせば許可されるため、人材採用や受け入れに費用をかけ、時間と労力を費やして育て上げた人材が他社に移籍してしまう可能性があります。このようなリスクを避けるためには、優れた労働環境や適正な賃金・福利厚生が重要です。
もし転職が発生した場合、受け入れた企業に対して何らかの補償制度を設けることが考慮されています。
『育成就労』は『特定技能』の代わりになるのか?
『育成就労』は、2019年に新設された『特定技能』と同じく、「日本の特定産業における人手不足の解消」を目的とした在留資格です。
では、『特定技能』で外国人を受け入れを検討していた企業が、今後『育成就労』で受け入れた場合、人手不足の補填として成立するのでしょうか?
実際には、『育成就労』と『特定技能』では受け入れの条件が大きく異なるため、「『特定技能』を考えていたがこれからは『育成就労』でいいじゃないか」と考えるのは危険です。
ここでは、『育成就労』と『特定技能』の違いを比較し、『育成就労』は『特定技能』の代わりになるのかという観点で考えていきましょう。
『就労育成』と『特定技能』の比較
育成就労 | 特定技能 | |
---|---|---|
目的 | 人材育成・長期的な人材確保 | 特定分野における人手不足の解消 |
在留期間 | 原則3年 | 特定技能1号:5年 特定技能2号:制限なし |
日本語水準 | 日本語能力検定『N5』以上合格 | 日本語能力検定『N4』以上、 もしくは国際交流基金JFT Basic A2のいずれかに合格していること 特定技能分野「介護」の場合「介護日本語評価試験」にも合格しなければならない |
技能水準 | 技能試験はない | 特定技能評価試験に合格することが必要 |
転職・職場変更 | 要件を満たした場合可能 | 可能 |
職種 | 特定技能1号に準ずる(予定) 18分野(特定技能1号) 介護/ビルクリーニング/素形材産業/ 産業機械製造業/電気電子情報関連製造業/ 建設/造船・舶用工業/自動車整備/ 航空/宿泊/自動車運送業/鉄道/ 農業/漁業/飲食料品製造業/ 外食業/林業/木材産業 | 18分野(特定技能1号) 介護/ビルクリーニング/素形材産業/ 産業機械製造業/電気電子情報関連製造業/ 建設/造船・舶用工業/自動車整備/ 航空/宿泊/自動車運送業/鉄道/ 農業/漁業/飲食料品製造業/ 外食業/林業/木材産業 |
『育成就労』と『特定技能』では日本語や技能のレベルが違う
上記の表で『育成就労』と『特定技能』を見比べてみると、大きな相違点は「日本語水準」や「技能水準」の部分でしょう。『特定技能外国人』として来日するには、日本語能力検定『N5』以上に合格する日本語能力が求められます。さらに、特定技能評価試験にも合格しなければなりません。このように『特定技能』は、即戦力として活躍することができる外国人を受け入れることができるのです。
一方で、『育成就労』では、日本語能力検定『N5』以上合格が条件となります。技能評価試験はありません。従来の『技能実習』では、職種「介護」以外は日本語能力の条件がなかったため、今回『N5』以上という要件がついたことで「日本語ができる外国人が雇用できる!」と期待してしまう方もいらっしゃるかと思います。しかしこの要件は、即戦力が期待できる『特定技能』とは、大きな差があるのです。
『育成就労』の受け入れ条件「日本語能力 N5」とは
まず、『育成就労』で求められる日本語能力検定『N5』がどれほどのレベルなのかを見ていきましょう。
日本語能力試験 認定の目安
レベル | 認定の目安 | |
---|---|---|
N1 | 幅広い場面で使われる日本語理解することができる | |
読む | 幅広い話題について書かれた、新聞の論説、評論など、論理的にやや複雑な文章や抽象度の高い文章などを読んで、文章の構成や内容を理解することができる。 さまざまな話題の内容に深みのある読み物を読んで、話の流れや詳細な表現意図を理解することができる。 | |
聞く | 幅広い場面において、自然なスピードの、まとまりのある会話やニュース、講義を聞いて、話の流れや内容、登場人物の関係や内容の論理構成などを詳細に理解したり、要旨を把握したりすることができる。 | |
N2 | 日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語を、ある程度理解することができる | |
読む | 幅広い話題について書かれた新聞や雑誌の記事・解説、平易な評論など、論旨が明快な文章を読んで文章の内容を理解することができる。 一般的な話題に関する読み物を読んで、話の流れや表現意図を理解することができる。 | |
聞く | 日常的な場面に加えて幅広い場面で、自然に近いスピードの、まとまりのある会話やニュースを聞いて、話の流れや内容、登場人物の関係を理解したり、要旨を把握したりすることができる。 | |
N3 | 日常的な場面で使われる日本語を、ある程度理解することができる | |
読む | 日常的な話題について書かれた具体的な内容を表す文章を、読んで理解することができる。 新聞の見出しなどから情報の概要をつかむことができる。 日常的な場面で目にする範囲の難易度がやや高い文章は、言い換え表現が与えられれば、要旨を理解することができる。 | |
聞く | 日常的な場面で、やや自然に近いスピードのまとまりのある会話を聞いて、話の具体的な内容を、登場人物の関係などとあわせてほぼ理解できる。 | |
N4 | 基本的な日本語を、理解することができる | |
読む | 基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる。 | |
聞く | 日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる。 | |
N5 | 基本的な日本語を、ある程度理解することができる | |
読む | ひらがなやカタカナ、日常生活で用いられる基本的な漢字で書かれた定型的な語句や文、文章を読んで理解することができる。 | |
聞く | 教室や、身の回りなど、日常生活の中でもよく出会う場面で、ゆっくり話される短い会話であれば、必要な情報を聞き取ることができる。 |
上記の表をみると、『育成就労』の受け入れ条件である『N5』レベルとは、「基本的な日本語を、ある程度理解することができる」というのが目安となっています。これは、ひらがなやカタカナ、よく使われる漢字を使用した提携文を読むことができ、ゆっくり話される短い会話であれば、必要なことをを聞き取れるというレベルです。
このレベルは、友人として雑談を楽しむには問題がないレベルと言えるかもしれません。しかし、人手不足で悩む企業で、専門的な知識を要する研修や業務中の指示においては不便を感じてしまうでしょう。
問1.()の ことばは ひらがなで どう かきますか。1・2・3・4から いちばん いい ものを ひとつ えらんで ください。
「(新しい)くるまですね。」
(1)あたらしい(2)あだらしい(3)あらたしい(4)あらだしい
コミュニケーション不足はトラブルに直結する
忙しい業務の中で、『N5』レベルの日本語能力では不便を感じてしまうというお話をしました。
言語の壁は、外国人と経営者や上司・同僚とのコミュニケーション不足を生み出します。これまで『技能実習』において、実習生の失踪や犯罪に巻き込まれてしまうといったの社会問題は、「コミュニケーション不足」も大きな原因の一つになっているのです。
「できない」「わからない」が上司や経営者にうまく伝えられない、同僚との関係性がうまくいかず職場内で孤立してしまい、弱音を吐くこともできない。こんな状況を想像してみてください。逃げ出したくなることもあるでしょう。そして異国の地で生活の術を持たない外国人は、様々なトラブルに巻き込まれてしまうのです。
技能試験はないため即戦力は期待できない
『育成就労』と『特定技能』の違いとして異なるのは、日本語水準だけではありません。技能水準においても、『育成就労』には技能試験はないため、専門的な知識や技能はなく、これまでの『技能実習』と同等であると言えるでしょう。
日本語教育と業務における教育を両方一度に行うことを考えると、人手不足の企業で受け入れるには少々ハードルが高いと言えるでしょう。
人材不足が深刻なのは「都市部の大企業」よりも「地方の中小企業」
前述の通り『育成就労』では、「日本語水準の不足」や「技能や知識の試験がないこと」が、入国後実際に業務にあたる上で、企業側にとっても外国人本人にとっても、大きなハードルとなるでしょう。
右のグラフを見ると、小規模な会社ほど求人数が多いのがわかります。これは、大規模な大手企業よりも中小企業の方が、より人手不足が深刻であることの表れです。
大規模な会社であれば、従業員数が多い分、外国語ができる人も少なくなく、『育成就労』の外国人に付きっきりになって研修することも可能でしょう。
しかし、従業員が少ない中小企業ではそうはいきません。日本人の従業員は、自身の仕事をしながら外国人の研修をすることになり、オーバーワークになってしまいます。これでは人手不足をさらに加速させることにもなりかねません。
さらに、都市部と地方でも格差があります。多くの若者や労働者が、高い給料や多彩な職業の機会を求めて、大都市に流れて行く一方で、地方の労働力が不足するという問題が深刻化しているのです。
【引用】厚生労働省「一般職業紹介状況」より
これは外国人の雇用においても懸念される問題であり、地方では日本語が学べる学校が少ないために、『育成就労』では転職が許可されることも相まって結局都市部へ人材が流出してしまう可能性もあります。
これらのことから、本当に人手不足が深刻な「地方の中小企業」においては、『育成就労』の受け入れだけでは、人手不足解消を早急に解決できるとは言えないのです。
まずは『特定技能外国人』を受け入れてみよう
では、地方の中小企業では、外国人材の受け入れは不可能なのでしょうか。
決してそういったことではありません。地方の中小企業が、無理なく外国人材を受け入れるにはどうすれば良いか、考えてみましょう。
『特定技能外国人』は即戦力の人材が期待できる
先ほど『育成就労』と『特定技能』の比較でもお話しした通り、『特定技能』であれば日本語水準は『N4』レベル以上と比較的高く、しかも技能試験をクリアした外国人のみを受け入れることができ、即戦力として活躍してくれることが期待できます。そのため、外国語が堪能な職員や専任のトレーナーを配置できない中小企業でも、雇用しやすいのです。
さらに、『特定技能』では、日本での生活におけるサポートや日本語学習のサポートなどの支援活動が受け入れ企業に義務付けられていますが、これらは外部の登録支援機関に委託することで、自社の職員の業務を圧迫することなく行うことができます。
実際に、『特定技能外国人』を受け入れた中小企業の経営者の方からは、「思った以上に早く戦力として活躍してくれているし、職場に溶け込んでいる」という声が多く聞かれます。
在留資格『特定技能』に関する詳細は、下記でも解説しておりますので、ぜひご覧ください。
育成就労制度が施行されるまであと3年で何ができるか
今回創設されることが決定した『育成就労制度』が施行されるまで、あと約3年。ゆくゆく『育成就労』の受け入れを検討している経営者の方には、まずは『特定技能外国人』を受け入れてみることをオススメします。
前述の通り、『特定技能外国人』は、日本語水準・技能水準ともに高く、即戦力が期待できるような人材です。今『特定技能外国人』を雇用すると、3年後にはさらに日本語能力・技能レベルがレベルアップしていることでしょう。
このことから、例えば、今ミャンマー人の『特定技能外国人』を受け入れ、約3年後『育成就労制度』が施行されたら、同じミャンマー人の『育成就労』を受け入れるのはいかがでしょうか。母国が同じ先輩がいる環境であれば、言語や文化の違いもよく理解でき、業務においても生活においても意思の疎通がスムーズで良き相談相手になってくれることでしょう。
結果的に外国人が働きやすい環境を提供することができるため、転職や帰国をせずにそのまま『特定技能1号』、『特定技能2号』と移行して、企業に定着してくれる人材を確保することができるのです。
まとめ
今回は、新たに創設される『育成就労制度』について、問題点や意外な落とし穴についてお話ししました。
新しい制度ということで、『育成就労』に注目している経営者の方もいらっしゃるかと思いますが、検討する前に注意しなければなりません。まずは、『育成就労』に過度な期待をしないことと、みなさんの企業で外国人の受け入れ体制がどれくらい整っているのかを見直すことが大切です。
株式会社アストミルコープでは、まずは日本語水準・技能水準ともにレベルの高い『特定技能外国人』を受け入れてみることをオススメしています。
登録支援機関である当社では、『特定技能外国人』の採用活動から、入国時・入国後の講習や生活や日本語学習の支援活動、在留資格更新に至るまでサポートしております。煩雑な書類作成や手続き関係もお任せいただけますので、深刻な人手不足でお悩みの地方の中小企業を経営する皆様にも「外国人受け入れのハードルが下がった」とご好評いただいております。
『育成就労』『特定技能』に関わらず、外国人の受け入れについてご検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。無料のオンラインでの個別相談も行っておりますので、なかなか聞けない疑問や悩みもお気軽にご相談いただけます。 海外人材採用支援20年の専門家が、外国人の在留資格に関する詳しい情報や各国の外国人の特徴などもお話させていただきます。