特定技能と技能実習|2つの在留資格の違いや採用する際の判断基準など

2019年に新設された在留資格「特定技能」ですが、似た名前の在留資格である「技能実習」と混同している方が多いようです。
しかし、この2つは似ているようで全く制度であり、こういった勘違いからトラブルを招くこともあります。
そこで今回は、経営者の皆さんがご自身の企業で採用するにあたってどちらを採用すべきか迷うことのないよう、「特定技能」と「技能実習」の2つの在留資格の違いをしっかり解説いたします。

目次

在留資格「特定技能」と「技能実習」とは

まずは、「特定技能」と「技能実習」のそれぞれの制度の概要を理解しましょう。
それぞれの制度が創設された目的が分かれば、違いもはっきりしてくるでしょう。

特定技能とは

特定技能制度は、2019年に労働力不足に対処するために創設された制度で、特定の業種で働ける外国人労働者を受け入れる仕組みです。
特定技能で来日する外国人は、日本語能力試験と技能試験に合格した即戦力が期待される労働者です。
この制度には「特定技能1号」と「特定技能2号」があり、1号は最大5年間の在留が可能、2号では在留期間の制限はありません。2号はより高度な技能が必要とされ、家族の帯同や在留期間の更新が可能です。

特定技能制度や、特定技能外国人を受け入れるための費用については、下記でも解説しておりますので合わせてご覧ください。

技能実習とは

技能実習制度は、1993年に創設された在留資格で、日本が発展途上国の人々に技能や技術を習得させるための国際貢献を目的とした制度です。
この制度により、実習生は日本企業での労働を通じて技能を身につけ、帰国後に自国の発展に貢献することが期待されています。
実習期間は通常1年から3年であり、特定の職種に従事します。
技能実習生はあくまでも「実習」のために来日することから、日本語能力や従事する分野についての知識がない場合が多く、従事させることができる作業にも制限があり、給与も最低賃金が適用されます。

特定技能と技能実習の違い

それではいよいよ、「特定技能」と「技能実習」の違いを比較していきましょう。
前述の通り、この2つはそもそも創設された目的が異なり、それに伴い大きく10個の違いがあります。

特定技能と技能実習の比較表

特定技能技能実習
目的 日本の人手不足を補うため 日本で技術を習得し
母国で広めてもらう「国際貢献」のため
作業内容 単純作業を含む日本人と同じ幅広い業務が可能 単純作業には従事できない
職種 18分野(特定技能1号)
介護/ビルクリーニング/素形材産業/
産業機械製造業/電気電子情報関連製造業/
建設/造船・舶用工業/自動車整備/
航空/宿泊/自動車運送業/鉄道/

農業/漁業/飲食料品製造業/
外食業/林業/木材産業
90職種(165作業)
・農業関係(2職種6作業)
・漁業関係(2職種10作業)
・建設関係(22職種33作業)
・食品製造関係(11職種18作業)
・繊維・衣服関係(13職種22作業)
・機械・金属関係(17職種34作業)
・その他(21職種38作業)
・主務大臣が告示で定める職種および作業(2職種4作業)
技能水準 特定技能評価試験に合格することが必要 技能試験はない
日本語水準 日本語能力検定N4以上、もしくは国際交流基金JFT Basic A2のいずれかに合格していること
特定技能分野「介護」の場合「介護日本語評価試験」にも合格しなければならない
介護職種のみ日本語能力検定N4レベルが求められるが、
その他の職種は試験はない
働き方 転職できる転職不可
在留期間 特定技能1号:通算5年
特定技能2号:上限なし
合計3年(技能実習1号+2号)
※1ヶ月以上帰国の上、技能実習3号で追加2年可
家族の帯同 特定技能2号のみ条件を満たせば認められる 認められない
受入れ人数 制限なし
※「介護」「建設」は事業所在籍の 日本人従業員数と同数まで
事業所の規模によって受け入れ人数の上限がある
関係団体 基本的に企業と特定技能外国人の2者間
登録支援機関が介在する場合もある
監理団体、技能実習機構、送出機関など

①目的の違い

「技能実習」と「特定技能」は外国人を企業で受け入れるという点では同じですが、それぞれの在留資格が創設された目的が根本的に違います。
「特定技能」は、日本が人手不足で困っている分野で即戦力として働いてもらうことが目的の「労働者」です
それに対し、「技能実習」は、日本で技術を習得して発展途上国である母国に持ち帰り広めることが目的のあくまでも「実習生」であり、労働力として考えてはいけないものになります。

②作業内容の違い

「特定技能」と「技能実習」は、「労働者」か「実習生」かという違いから、実際に従事できる業務にも違いがあります。
「特定技能」は、人手不足の解消が目的であることから、日本人の職員が従事している業務と同じ、幅広い業務に従事することができます。
対して「技能実習」は、「技術習得」が目的であることから、専門的な知識や技能は不要な単純作業に従事させることはできません。

③職種の違い

特定技能と技能実習では、受け入れることができる職種は異なり、現在では特定技能は1号で18分野、技能実習は90職種(165作業)で受け入れが許可されています。
さらに、2024年の3月には、特定技能1号に「自動車運送業」「鉄道」「林業」「木材産業」の4分野が新たに追加されました。このことからも分かるように、今後加速していく日本の人手不足に対応していくためにも、特定技能はますます対象分野が拡大されていくことが予想されます。

④技能水準の違い

特定技能は、即戦力となる外国人労働者を受け入れることが目的であることから、就労する分野の知識や技能が一定の水準以上であることが求められます。
これに対し、技能実習は、それぞれの職種に関する知識や習得することそのものが来日の目的であるため、入国前に知識や技能を習得しておく必要はありません。

⑤試験の違い

特定技能の場合、④でもお話しした通り、一定以上の知識や技能が求められるため、「特定技能評価試験」に合格する必要があります。また、同時に日本語能力も求められるため、日本語能力試験「N4」もしくは国際交流基金日本語基礎テスト「A2」レベル以上の合格も条件となります。さらに、介護職の場合は、「介護日本語評価試験」にも合格することが条件となります。
技能実習の場合は、技能試験はなく、日本語能力をはかる試験も基本的にはありません。ただし、介護職種の場合のみ日本語能力検定N4レベル以上であることが求められます。

⑥働き方の違い

特定技能外国人は「労働者」であるため、日本人の労働者と同じく、他の企業へ転職する権利があります
しかし、技能実習は、あくまで技能を習得するための研修です。そのため、通常の社会人として転職活動をすることはできず、実習先を変更することも基本的には許可されません。そのため失踪のリスクが伴います。

⑦在留期間の違い

在留期間は、特定技能1号で通算5年、特定技能2号では上限はありません。
技能実習については、技能実習1号は1年以内、技能実習2号は2年以内、技能実習3号は2年以内(合計で最長5年)という許容期間が設けられています。

⑧家族の帯同の違い

技能実習は、外国人が日本で技術を学び、帰国することを前提とした制度であるため、家族との滞在を認められていません。
一方、特定技能1号という在留資格も家族の滞在を認めていませんが、特定技能2号に移行すれば在留期間に上限がなくなるため、条件を満たせば配偶者や子供などを連れて来ることができるようになります。

⑨受け入れ人数の違い

特定技能の制度は、労働力を確保することを目的として導入されているため、建設と介護を除いては、特定技能の受け入れ数に制限はありません。
しかし、技能実習は、企業側が実習生に対して適切な技術指導を行うことができるよう、受け入れる実習生の数には技能実習法で上限が定められています。
例えば実習実施者の常勤職員数が30人以下の場合、技能実習生3人を受け入れることができます。

⑩関係団体の違い

特定技能においては、企業と特定技能外国人の間での「雇用関係」が主となります。受け入れ企業の支援体制次第では、採用から就労中の生活支援まで自社で一貫して行うことで、2者間のみの関係性となります。ただし、受け入れや支援業務には細かな専門知識が必要となり、書類を作成するなどの業務も膨大になることから、それらの業務は登録支援機関に委託しているケースが大半です。
一方技能実習の場合は、海外の「送り出し機関」と国内の「監理団体」を必ず介する必要があり、実習を終えるまでの間、サポート業務や監理業務を実施していきます。

特定技能と技能実習、どちらを受け入れるべき?

経営者の方々とお話をしていると、「外国人の受け入れを考えているが、特定技能と技能実習どちらがいいのだろうか?」という質問を多くいただきます。これらの質問をされるのは、前述の2つの在留資格の「目的の違い」がわからず、それぞれを混同しているためでしょう。ここでは、この2つの在留資格を混同しないための考え方をお話します。

「技能実習」は「安い労働力」ではない

技能実習生は最低賃金で雇用することができます。それに対し、特定技能外国人は、日本人と同等の待遇でなければなりません。このことから、技能実習生を「安い賃金で雇うことができる外国人」と勘違いしている経営者の方がいるのも事実です。あくまでも、技能実習は「実習生」であり「労働者」ではないことを認識しておく必要があります。

技能実習はあくまでも「実習生」、労働力としての生産性を求めればトラブルに

技能実習では、受け入れ企業側が技能実習生を「労働力」とみなし、日本人の職員と同等の生産性を期待してしまったことからトラブルが生じることがあります。技能実習生は、日本語能力や専門知識もなく、育成に時間がかかり、業務を任せられる範囲が限られてしまいます。
さらに、実習生自身も低賃金であることに加え、賞与や業績評価がない環境で、モチベーションを維持するのが難しい状況です。また、一部の技能実習生は出稼ぎのつもりで借金をして日本に来日しており、生活が困難になるとお金に関するトラブルが起きたり、失踪してしまうケースが増加しています。さらに、窃盗などの犯罪に手を染める実習生もおり、社会問題となっています。

最低賃金で受け入れが可能、しかしその他の費用で結果的にコスト高に

技能実習は最低賃金で受け入れることができますが、それで人件費を節約しようという考えを持ってはいけません。技能実習を受け入れるには、給与や福利厚生費以外にも、さまざまな経費が発生します。例えば、日本に入国する際には、航空券代や宿泊費など、多くの初期費用がかかります。こういった費用は、特定技能であれば、渡航費はもちろん、住居費や水道光熱費も外国人本人が負担します。また、引越し費用や住居に関する費用も発生しますが、これらは特定技能の場合は、双方の同意があれば特定技能外国人本人に負担してもらうことができます。

さらに、技能実習は、就労後には毎月、監理機関に支払う「監理費」が発生します。また、初回は、組合などの監理団体への入会金も発生するため、入国時も勤務期間中もも、非常に多くのコストが発生することがご理解いただけるのではないでしょうか。

そのほか、特定技能は技能検定試験など受け入れ期間中の追加費用もほとんど発生しないため、総合的なコストを考えると、技能実習制度よりも経費を抑えることができるでしょう。

人手不足のお悩み解決が目的なら「特定技能」

経営者の方々のお話を伺うと、外国人を受け入れを考えている理由の多くが「人手不足の解消のため」のように感じます。この場合は、当然「⼈⼿不⾜を解消するために設置した労働ビザ」である「特定技能制度」を利用するのが最善でしょう。

「特定技能」は日本語試験と技能試験をパスした即戦力の労働力

人手不足の解消に特定技能外国人を受け入れるメリットとして、能力の高さがあります。特定技能として日本に入国するには、日本語能力試験と特定産業分野の技能試験に合格しなければなりません。そのため、日本語能力や知識を問われない技能実習生とは異なり、即戦力として活躍することが期待される労働者です。そのため、外国人への指導に慣れたスタッフがいないような中小企業でも受け入れやすく、トラブルにもつながりにくいのが特徴です。

日本人の労働者と同待遇が必要

即戦力となることが期待できる特定技能外国人は、給与や福利厚生など、待遇面で日本人と同等でなければなりません。業務内容に関しても、単純作業を任せることができない技能実習生とは異なり、特定技能は、日本人と同等の業務を任せることができます。賞与や実績評価ももちろんあるので、特定技能外国人本人としても「頑張ったら評価してもらえる、給料が増える」というモチベーションで働くことができるのです。

さらには、特定技能2号に移行すれば在留期間の制限もなくなります。企業側としては、入社後戦力として活躍するようになった職員には、当然、なるべく長く働き続けて欲しいと考えるものです。また、外国人にとっては、仕事や日本での生活に慣れて楽しくなった頃に辞めなくても良い、といったことがメリットになります。

質の高い人材を結果的に割安に受け入れることができるのは「特定技能」

特定技能は、「日本人と同じ給料を払わなければならないから割高」と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、それは大きな間違いです。前述の通り、技能実習では最低賃金で雇用することができますが、それ以外の費用が多く発生するため、技能実習は特定技能よりもコストが大きくなる傾向です。

そもそも、特定技能は日本語能力試験と技能試験に合格した質の高い人材を受け入れられることを考えれば、割高とは言えません。さらには、特定技能2号へ移行することで在留期間の制限もなくなるため長期雇用が実現でき、長い目で見れば、採用や教育に関する経費考えると技能実習よりも割安と言えるでしょう。

実際に、登録支援機関であるアストミルコープを通して特定技能外国人を採用した場合、入国までの費用が一人あたり25万円で、技能自習の平均値と比べると約9.5万円の経費削減になります。下記は特定技能と技能実習の費用の比較表になります。

入国までの費用

アンケート対象者数は1972団体、有効回答数は631団体で、有効回答率は約32.0%であった。

※「監理団体が実習実施者から徴収する管理費等に関するアンケート調査の結果について/外国人技能実習機構(OTIT)-2022年1月24日」より引用

技能実習
(調査平均値)
特定技能
(アストミルコープ)
入国前講習に要する費用 ¥26,008 ¥0
健康診断費用 ¥9,232 ¥0
来日する際の初回渡航費 ¥55,893 ¥0
入国後講習に要する費用 ¥74,258 ¥0
入国講習における費用 ¥59,313 ¥0
帰国のための渡航費 ¥14,307 ¥0
一時帰国にかかる渡航費 ¥9,288 ¥0
送出機関に支払う費用 ¥7,086 ¥0
監査・訪問指導費用 ¥802 ¥0
その他実習監理に要する費用 ¥13,183 ¥0
一人当たりの平均費用 ¥343,628 ¥250,000
一人当たりの削減額
-93,628円

注)技能実習は初回『監理団体の入会費(10,000〜100,000円)』が別途必要です。


勤務期間中の費用例

アンケート対象者数は1972団体、有効回答数は631団体で、有効回答率は約32.0%であった。

※「監理団体が実習実施者から徴収する管理費等に関するアンケート調査の結果について/外国人技能実習機構(OTIT)-2022年1月24日」より引用

技能実習
(調査平均値)
特定技能
(アストミルコープ)
月額年額 月額 年額
定期費用(監理費等) ¥30,724 ¥368,688 ¥19,800 ¥237,600
給与40時間/週 ¥170,000 ¥2,040,000 ¥180,000 ¥2,160,000
社会保険料 ¥17,000 ¥204,000 ¥18,000 ¥216,000
在留資格更新手数料・取次料 ¥50,000 ¥150,000
監理団体年会費 ¥93,211
不定期費用 ¥51,593
費用合計 ¥217,724 ¥2,807,492 ¥217,800 ¥2,763,600
一人当たりの削減額
-43,892円/年

注)技能検定料、技能実習計画認定等申請関係費用、監理事業の実施に要する費用、技能実習生の保険料、外部監査用、新型コロナウイルス感染症対策関連費用等の費用を1/3で換算

特定技能の受け入れにかかる費用については、下記の記事でも解説しておりますので、ぜひご参考にしてみてください。

まとめ

今回は、特定技能と技能実習について、2つの在留資格の違いや、採用を検討する際にどちらを選択するかの判断基準などについてお話しいたしましたが、いかがだったでしょうか?

「人手不足の解消なら特定技能」を受け売れるべき、「技能実習はあくまでも実習生、国際貢献が目的の在留資格である」ということがご理解いただけたのではないでしょうか。

技能実習制度は、人手不足の解決手段として技能実習生を受け入れ厳しい労働環境が強いられトラブルが相次ぐということが目的と実態のギャップが問題視されており、新たな制度への移行も求める動きが大きくなっています。
今後日本は少子高齢化が加速し、さまざまな業種で人手不足がますます深刻化していくでしょう。

特定技能制度の登録支援機関である株式会社アストミルコープでは、そういった人手不足が進む業界の経営者の方のお悩みを伺い、外国人を受け入れるサポートを行っております。
特定技能外国人の受け入れについてご検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。無料のオンラインでの個別相談も行っておりますので、なかなか聞けない疑問や悩みもお気軽にご相談いただけます。海外人材採用支援20年の専門家が、特定技能制度の詳しい情報や各国の外国人の特徴などもお話させていただきます。

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